大阪高等裁判所 昭和38年(ネ)1022号 判決 1967年6月08日
第五九六号事件控訴人 株式会社兵庫相互銀行
第一〇二二号事件当事者参加人 藤本甫
第五九六号事件被控訴人・第一〇二二号事件被参加人 細見敏夫
主文
本件控訴を棄却する。
当事者参加人の請求を棄却する。
当事者参加により生じた訴訟費用は、当事者参加人の負担とし、当審におけるその余の訴訟費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人は、控訴人に対し金八〇〇、〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求めた。
当事者参加人(以下参加人という。)代理人は、「一、控訴人の被控訴人に対する請求が理由のないときは、被参加人は、参加人に対し、金八〇〇、〇〇〇円及びこれに対する当事者参加申立書の送達の日の翌日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。二、訴訟費用は、被参加人の負担とする。」との判決ならびに第一項につき仮執行の宣言を求めた。
被控訴人兼被参加人代理人は、控訴につき、「本件控訴を棄却する。控訴費用は、控訴人の負担とする。」との判決を求め、当事者参加につき、本案前の答弁として、参加人の訴を却下するとの判決を、本案につき、「参加人の請求を棄却する。参加訴訟費用は、参加人の負担とする。」との判決を求めた。
控訴事件に関する控訴人と被控訴人との主張、証拠の関係は、次のとおり付加するほか、原判決の事実摘示中右当事者に関する部分(原判決の事実及び理由記載のうち、四枚目裏八行まで)と同一であるから、これを引用する。
(証拠省略)
当事者参加事件につき、参加人代理人は、参加の理由と請求の原因として、次のとおり述べた。
一、控訴人は、被控訴人(被参加人、以下被控訴人という。)を相手として金八〇〇、〇〇〇円の支払を求める訴を提起し、目下大阪高等裁判所に同庁昭和三七年(ネ)第五九六号事件として係属中である。
二、控訴人の被控訴人に対する請求原因は、「控訴人は、昭和三五年五月三〇日訴外細田唯一に対し金八八七、〇〇〇円を弁済期同年六月一一日の約定で貸与し、被控訴人は、右債務のうち金八〇〇、〇〇〇円につき保証をしたので、その保証債務の履行を求める。」というのである。これに対する被控訴人の答弁の要旨は、「控訴人の主張する貸金は、元控訴人の柏原支店長であつた参加人が個人として細田唯一のために立替払をしたもので、控訴人の細田唯一に対する貸付金ではない。」というのであつて、原判決も「参加人が個人の金を細田唯一に貸与した事実が認められる。」として、控訴人の請求を棄却する主要な理由としている。
三、右貸金は、参加人が控訴人の柏原支店長(支配人)在任中に細田唯一から被控訴人を保証人とする貸付申込によりなされたものであるが、所要の書類を完備するのに日時を要したので、右両名から応急の措置として立替払を懇請されるままに、正規の手続を後日にゆずり、取りあえず参加人が自己の金で立替払をしたのである。したがつて、参加人は、控訴人の支配人としての代理権に基き控訴人のために貸し付けたのである。しかし、この点に関する見解を異にし、原判決のように控訴人の請求が排斥される場合には、参加人は、被控訴人の金八〇〇、〇〇〇円を限度とする保証により細田唯一に対し金八八七、〇〇〇円を貸し付けたのであるから、被控訴人は、参加人に対し金八〇〇、〇〇〇円及びこれに対する当事者参加申立書送達の日の翌日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。そこで、参加人は、民事訴訟法第七一条により参加し(当初控訴人をも被参加人としたが、後に控訴人の同意を得てこれを取り下げた。)、被控訴人に対し、控訴人の請求が理由のないことを条件として右金員の支払を求める。
被控訴人代理人は、参加人の参加の理由と本案前の答弁として、次のとおり述べた。
一、本件参加訴訟は、民事訴訟法第七一条による独立当事者参加訴訟であるが、同条により訴訟に参加しうる者は、訴訟の結果により権利を害せらるべきことを主張する第三者又は訴訟の目的物の全部もしくは一部が自己の権利なることを主張する第三者に限られるが、参加人の請求の趣旨及び原因にはかかる主張は含まれていない。参加人は、控訴人より被控訴人に対する請求が理由ないことを条件として、参加訴訟の請求をしているのであるから、控訴人より被控訴人に対する請求を肯認しているものというべきであるから、その請求については、前記のような利害関係を有しない。又控訴人の請求が棄却された場合においても、参加人の権利が害せられることはない。若し、右請求が棄却された場合に参加人の権利が害せられるものとすれば、本件参加訴訟のような予備的請求は、その意義がない。
二、民事訴訟法第七一条の参加訴訟は、三当事者(控訴人、被控訴人及び参加人)対立の三面訴訟をその本質としている。しかるに、参加人は、控訴人に対しては何らの請求をしていない(もつとも、参加人は、当初控訴人の被控訴人に対する請求棄却の判決を求めたが、控訴人の請求が棄却されることを条件に本件参加をしたのであるから、参加人の控訴人に対する右請求は、無意義であるのみならず不適法である。)。このような参加訴訟は、その本質的要件を欠くものである。
三、以上のように本件参加による訴は、民事訴訟法第七一条の要件を欠く不適法なものであるから、却下さるべきである。
(証拠省略)
理由
まず当事者参加の適否につき判断する。
一、本件当事者参加の申立は、控訴人は、被控訴人に対し訴外細田唯一の控訴人に対する金八八七、〇〇〇円の債務のうち金八〇〇、〇〇〇円の保証債務の履行を求める訴を提起し、その控訴が目下当裁判所に係属中のところ、参加人は、右貸金は、参加人が控訴人の柏原支店長(支配人)として在任中控訴人のために立替えて細田唯一に貸与したのであるが、仮に右事実が認められないとすれば、参加人が被控訴人の金八〇〇、〇〇〇円を限度とする保証により細田唯一に前記金員を貸与したのであるから、被控訴人に対し右保証債務の履行を求めるため、予備的に民事訴訟法第七一条により本件当事者参加の申立をするというのである。被控訴人は、控訴人と被控訴人との間の訴訟の結果により権利を害せられることはなく、法律上の利害関係のないことは、その主張自体から明らかであり、もし右訴訟の結果により権利を害せられるとすれば予備的参加は無意義である旨主張するが、参加人は、民事訴訟法第七一条に定める「訴訟ノ結果ニ因リテ権利ヲ害セラルベキコトヲ主張スル第三者」として本件当事者参加の申立をしているのでなく、同条に定める「訴訟ノ目的ノ全部カ自己ノ権利ナルコトヲ主張スル第三者」として右申立をしているのであつて、このことは、参加人の主張自体から明らかである。ただ、控訴人の前記細田唯一に対する金員貸与の事実が認められない場合に予備的に右貸金債権が自己のものであり、保証人である被控訴人にその支払を求めているのである。同法第七一条に定める「訴訟ノ目的ノ全部カ自己ノ権利ナルコトヲ主張スル」とは、訴訟物である権利又は法律関係もしくはその権利の対象物が自己の権利に帰属し、又はその対象物の上に自己が権利を有することを主張することをいうのであり、通常の場合本訴の請求と論理的に両立しない場合である。本件においては、参加人は、本件訴訟の目的たる債権は、参加人が控訴人の柏原支店長として在任中控訴人のために立替えて被控訴人の保証の下に細田唯一に貸与した金八八七、〇〇〇円に対する保証債務の履行を求める債権であつて、右債権が確定的に自己に属することを主張せず、右貸金債権が控訴人に属せず、したがつて、被控訴人に対する請求が排斥されることを条件として本件参加の申立をしているところに問題があるのである。しかし、参加人は、予備的にせよ、右貸金が自己に帰属し、したがつて、被控訴人に対する保証契約に基づく権利を有することを主張しているのであるから、民事訴訟法第七一条にいう「訴訟ノ目的ノ全部カ自己ノ権利ナルコトヲ主張スル第三者」に当るものと解するのを相当とする。問題は、このような予備的当事者参加が許されるかどうかである。本件予備的当事者参加は、いわゆる訴の主観的予備的併合の一態様であると解すべきである。訴の主観的予備的併合が許されるか否かは、積極、消極と説の別れるところである。消極説は、原告から被告数名に対する関係で予備的併合の訴は許されないものとし、その論拠の要点として、(1) 被告の地位の不安定と不利益、(2) 民事訴訟法第六一条の適用があるため、統一的裁判又は併合関係維持の不可能の二点をあげているようである。しかし、本件のような当事者参加においては、参加人は、進んで予備的参加の申立をしているのであり、被告(被控訴人)は、終如変らず従来の訴訟資料を利用することができ特に不利益を被ることはなく、その地位が不安定であるということはなく、当事者参加の結果、民事訴訟法第六二条の準用により統一的裁判又は併合訴訟関係の維持も可能である。のみならず、訴訟経済にも合し、進んで参加する参加人にも便宜であり、従前の原告(控訴人)に対し、特に著しい不利益を与えるおそれもない。このようにみてくると、本件当事者参加が予備的であるとの理由のみで不適法ということはできない。
二、被控訴人は、民事訴訟法第七一条の参加は、三当事者対立の三面訴訟をその本質としているが、参加人は、控訴人に対しては何らの請求をしていないから、本件当事者参加は、その要件を欠き不適法であると主張し、参加人が当初控訴人をも被参加人としていたが、その後控訴人に対する訴を控訴人の同意を得て取り下げ、被控訴人に対する請求のみを維持していることは、記録上明らかである。しかし、民事訴訟法第七一条の参加は、一般に三当事者訴訟の形態をとる場合が多いだけであつて、必ずしも三当事者訴訟即ち従前の当事者双方を相手方としなければならぬものではなく、参加人の主張を争う者のみを相手方として参加することも許されるものと解するのを相当とするから(最高裁判所昭和二七年三月四日判決、民集六巻三号二八九頁参照)、本件当事者参加が被控訴人主張のような要件を欠くものということはできない。
三、以上の理由で、本件当事者参加は、適法であつて許さるべきものと解する。
次に、本案につき判断することとする。
控訴人は、訴外細田唯一に対し昭和三五年五月三〇日に金八八七、〇〇〇円を貸与し、被控訴人は、その内金八〇〇、〇〇〇円につき保証したと主張するが、当審証人細田唯一の証言により成立の認められる甲第一号証、控訴人と被控訴人との間に成立に争いがないのと当審における被控訴人本人尋問の結果により成立の認められる甲第二、三号証は、後記認定のような事情で作成交付されたものであるから、これらにより控訴人の右主張事実を認めることはできない。前掲甲第一ないし第三号証、控訴人と被控訴人との間で成立に争がないのと当審証人細田唯一の証言により成立の認められる甲第四号証、当審における参加人本人尋問の結果により成立の認められる甲第五号証、原審証人藤本甫、当審証人細田唯一の各証言、当審における参加人及び被控訴人各本人尋問の結果を総合すると、次の事実を認めることができる。
一、参加人は、昭和三一年一一月一日から昭和三五年一一月一日まで控訴人の柏原支店長として勤めていた者である。細田唯一は、土木請負業を営んでおり、参加人が右支店長をしていた当時右支店と取引をし、昭和三五年頃同支店に対し借受金債務金五〇〇万円、預金二五〇万円か二六〇万円を有していた。細田唯一は、その頃大阪の方で工事を請負い、請負先の大阪の土木業者から工事完成の際工事代金二〇〇万円を控訴人が代理受領できる委任状をもらつてこれを右支店の支店長代理高瀬某に交付した上、自己の債権者である笹倉義司に対し右工事代金を受領したら支払うとの証明書を書いて渡してくれと依頼し、高瀬は、これを承諾して、右支店長の印を押した証明書を笹倉義司に交付した。しかるに、細田唯一は、前記工事が半分位進行した頃水害などのため工事の完成不能により解約となり、代金の支払を受けることができぬようになつたといつて、前記委任状の返還を求めた。高瀬は、右委任状に基づく貸付をしていなかつたので、細田唯一にこれを返還した。細田唯一は、右委任状を前記大阪の土木業者に返し、出来高に応じた代金を受領した。笹倉義司は、控訴人が前記のような証明書を出した以上、支払の責任があるといつて控訴人に請求したので、参加人と細田唯一及び笹倉義司とが昭和三五年五月二〇日頃話合つた結果、細田唯一が金融を得て支払う旨約した。しかし、細田唯一は、右約束を履行しなかつたので、同月二七日頃控訴人の本店で右三者と本庄課長と話合い、自己の不動産や預金を担保に入れるほか、被控訴人に保証を依頼するから控訴人から貸付をしてもらいたい、その金で支払うといつた。控訴人側は、被控訴人が保証人になるなら、細田唯一に金を貸してもよいと考えた。
二、細田唯一は、同月二八日妻を介し被控訴人に工事を請負つたので、その資金を控訴人の柏原支店から借り受けるにつき保証をしてもらいたいと依頼し、被控訴人は、工事資金の借入なら請負代金を銀行が代理受領するのが通例であるから、損害を被るおそれはないと思い、保証人になつてもよい旨記載した承諾書(甲第二号証)に署名押印し、印鑑証明書とともに交付した。細田唯一は、これを前記支店長であつな参加人に交付した。
三、昭和三五年五月三〇日細田唯一及び被控訴人の控訴人に対する借入及び保証券に関する正規の書類が完備せず、貸付手続に必要な本店の決裁がないにもかかわらず、参加人は、笹倉義司からせかれるままに、細田唯一の承諾の下に自己の所持金八八四、八〇〇円を細田唯一の借受元利金の支払として、笹倉義司に支払つた。
四、参加人は、その後被控訴人に保証書類の提出を求めたところ、被控訴人は、細田唯一が工事を請負いその資金の融資を受けるのでなく、旧債の支払に充てるために借り受けたものであることを知り、このような借受金については保証できないと保証することを拒絶した。そこで、参加人は、細田唯一に対し、甲第一号証の約束手形一通の振出交付を求めたので、同人は、振出日を二、三日さかのぼらせて振り出し、参加人に交付した。
五、細田唯一から控訴人に対し、前記金員については借受手続に要する正規の書類を差し入れておらず、右金員については、控訴人の帳簿にはその記載はなく、その後控訴人から参加人に対し右金員に相当する金員の交付はない。
原審証人藤本甫の証言、当審における参加人本人尋問の結果中右認定に反する部分は、採用できない。右認定の事実によると、控訴人が細田唯一に貸与したと主張する金員は、参加人個人が細田唯一に貸付したものと認めるのを相当とする。そうすると、控訴人が細田唯一に右金員を貸与したことを前提とする被控訴人に対する請求は、失当であることが明らかであるから棄却さるべきである。
次に、参加人の請求につき考えるに、参加人個人が細田唯一に前記金員を貸与するにつき、被控訴人が保証をしたことを認めるに足る証拠はない。前記認定の事実ならびに弁論の全趣旨によると、被控訴人は、細田唯一が控訴人から工事資金を借り入れるなら保証人となつてもよい旨意思表示をしたにすぎず、参加人から細田唯一に対する貸与のことは何も聞いておらず、これを保証する意思を表示したこともないことが明らかである。したがつて、参加人の被控訴人に対する請求は、失当であるから、これを棄却することとする。
控訴人の被控訴人に対する請求につき、以上と同旨の原判決は、相当であつて、本件控訴は理由がない。
よつて、民事訴訟法第三八四条第一項第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 岡野幸之助 山田鷹夫 宮本勝美)